抄録
食品中残留農薬の規制に関しては、厚生労働省が食品衛生法で規格基準(残留農薬基準)を設定し、基準値を超えた食品を市場から排除する仕組みをとっている。2002年には、無登録農薬の使用や輸入食品の残留農薬基準値違反が問題となり、リスク管理の強化が求められた。これを受け、政府は、2003年に農薬取締法と食品衛生法を相次いで改正し、農薬を登録する際には、同時に残留基準値を設定することとなった。また、2006年5月29日にポジティブリスト制度が導入され、今日では、網羅的な規制が敷かれている状況である。農薬が残留する食品を摂取した場合、ヒトは農薬に暴露されることになり、その暴露量がどの程度なのか?定量的な考察が必要となる。食品中の残留農薬基準値は、安全性評価試験データに基づいて設定された農薬の一日許容摂取量(ADI)に、作物残留試験データや栄養摂取量調査データを加味して食品からの農薬摂取量を推定し、その総量がADIの80%を超えることの無いように食品ごとに設定される。残留基準値は、この値を超えたからといってすぐに健康影響が生じるというものではないが、リスク管理上の拠り所となっている。リスク管理の手法としては、農業生産工程管理(GAP)に従って、農業生産現場が適切に農薬を用いて農産物を生産することが基本である。一方、生産現場や流通現場においては農産物の品質保証の見地から、また、行政機関においては消費者の食の安全を守る見地から残留農薬検査を行っている。農薬の残留レベルは百万分の1~1兆分の1であることから、検査には、高感度な分析法が必要である。また、食品成分の影響を大きく受けることから、特殊な前処理技術を求められる。現在は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)や液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて多数の農薬を網羅的に高感度でスクリーニングする方法が一般的となっている。
ここでは、当センターで行っている残留農薬検査の概要と食品中農薬残留実態、並びに検出状況の傾向についてデータを交えて紹介する。