抄録
薬物代謝によって反応性代謝物(Reactive metabolite: RM)が生成し、タンパク質などの生体高分子と共有結合することがIdiosyncratic drug toxicities (IDTs)の発現メカニズムの一つとして考えられている。これまでに我々は、様々な毒性プロファイルを有する42の市販薬について共有結合試験データを蓄積し、ヒト肝細胞系の共有結合量と臨床1日用量を指標としたIDTリスクアセスメント手法、zone classification systemを報告した。しかしながら、探索段階において臨床用量を精度よく予測するのは難しく、またコストやスループットの面から数多くの候補化合物について共有結合試験を実施するのは現実的ではない。よって、より簡便に実施可能なRMトラッピング試験やCYP time-dependent inhibition (TDI)試験を活用することで、探索段階の構造最適化プロセスにおいてRM生成のポテンシャルを低減する取り組みも重要視している。定性的なRMトラッピング試験に関しては、高分解能・高質量精度の質量分析器機を用い、mass defect filtering、dealkylationツール、isotope pattern filtering等のデータ解析手法を組み合わせることで、より効率的かつ正確にRMを検出することが可能となった。得られたデータをRM生成回避のドラッグデザインに効果的に結びつけるためには、matched molecular pair解析などの化学構造をベースとした計算化学的なアプローチも有効である。本発表では、ADME研究の立場から、代謝的特徴および化学構造的な特徴を考慮したIDTリスク回避の取り組みについて紹介する。