抄録
薬剤性肝障害(特に特異体質性)の発現機序の一つとして反応性代謝物の生成が考えられており、そのポテンシャル評価としてタンパク質への化合物の共有結合量測定が行われている。我々はこれまでに共有結合量に臨床用量を組み合わせることで肝障害発現のリスク評価が可能であると報告してきた。一方、肝障害の発現機序には複数の因子の関与が考えられることから、共有結合能のみならず、毒性等も加味した評価の必要性が近年指摘されている。そこで我々は共有結合能に各種in vitro毒性データ等を組合せた総合的リスク評価を実施し、その有用性について検討した。
FDAのLiver Toxicity Knowledge Base (LTKB) に基づいたヒトにおける薬剤性肝障害のリスクからMost, Less, No concern の3つのカテゴリーに分類した化合物について、1) ヒト肝ミクロソームタンパク質への共有結合量、2) ラット肝細胞を用いた細胞毒性、3) ウシ・心臓ミトコンドリア亜粒子を用いたミトコンドリア毒性、4) ヒトbile salt export pump (BSEP)発現ベシクルを用いたBSEP阻害、5) ClogPの各評価を実施し、各評価結果をそれぞれスコア化した。その結果、各評価項目のスコア合計値と薬剤性肝障害リスクとの間に相関性が認められた。さらに各評価結果に化合物の生体内曝露を考慮してスコア化すると、両者の相関性はより高くなることが示された。これらの結果より、共有結合能に複数in vitro毒性ポテンシャルの組合せ、加えて生体内曝露を考慮した総合評価は、薬剤性肝障害の発現ポテンシャルのリスク評価に有用であると考えられた。