抄録
メチマゾール(MTZ)は抗甲状腺薬として広く用いられ、ヒトで稀に肝障害を起こすことが知られている。我々はL-buthinin-(S,R)-sulfoximine (BSO)投与によりグルタチオンを枯渇させた野生型マウスにMTZを投与すると肝障害が惹起され、肝障害の発症にT helper (Th) 2型免疫応答が関与することを明らかにした。本研究では、当該動物モデルを用いてTh2型免疫応答に関与するmiRNAについて検討した。
雌性Balb/cマウスに絶食下でBSO 700 mg/kgを腹腔内投与した1時間後にMTZ 25 mg/kgを経口投与し、MTZ投与後0、0.5、1、3及び6時間で血漿及び肝臓を採材した。血漿を用いてALT及びIL-4を定量し、肝臓を用いて、miRNA網羅的発現解析、miRNA/mRNA発現定量及び蛋白質発現定量を実施した。
MTZ投与後3時間以降で顕著な血漿中ALT及びIL-4の上昇並びに肝臓におけるTh2亢進型免疫因子のmRNA発現上昇が認められ、重篤な肝障害及びTh2型免疫応答が確認された。また、MTZ投与後1時間までに肝臓でTh2抑制型転写因子のmRNA発現減少がみられた。Taqman array miRNA cardを用いたmiRNA網羅的発現解析で障害群特異的に変動が認められたmiRNAから、Th2関連遺伝子を標的とし得るmiRNAを探索した結果、miR-29b-1-5p及びmiR-449a-5pが見出された。miR-29b-1-5pはMTZ投与0.5及び1時間で有意に発現が上昇し、miR-449a-5pはMTZ投与後0.5及び3時間で有意に発現が上昇していた。miR-29b-1-5p及びmiR-449a-5pはそれぞれTh2抑制因子であるSRY-related HMG-box 4 (SOX4)及びLymphoid enhancer factor-1 (LEF1)を標的とすることが予測され、これら転写因子の蛋白質発現はMTZ投与後1時間以降で抑制されていた。これらの結果から、miR-29b-1-5p及びmiR-449a-5p はSOX4及びLEF1の発現を負に制御し、MTZ誘導性肝障害におけるTh2型免疫応答に重要な役割を果たしていることが示唆された。