抄録
医薬品のがん原性評価では、通常、ラットを用いる2年間がん原性試験とマウスを用いた腫瘍発生を指標とする短期がん原性試験あるいは2年間投与試験の結果に基づき、ヒトでの発がんリスクを推定する。一方、既存のデータセットの解析から、「証拠の重み付け(WOE)要素」を考慮することにより十分な根拠に基づいてがん原性の有無が予測可能であれば、2年間ラット試験を省略可能とする新しいがん原性評価法が、ICH S1(がん原性試験)専門家作業部会により提案され、2013年8月に規制通知文書(Regulatory Notice Document,RND)として、ICH websiteに公開された。新しいがん原性評価法では、薬理作用に基づくがん原性の予測が最も重要な要因であり、発がんに関連するあらゆるon-target及びoff-targetの薬理作用を評価する必要がある。現在、新評価法検証のための前向き評価(Prospective Evaluation)が実施され、日米EU 3地域の製薬企業により、実施予定・進行中のラットがん原性試験の結果及びヒトでの発がんリスクを予測したがん原性試験評価文書(Carcinogenicity Assessment, CAD)が作成され、該当するがん原性試験成績の報告も求められている。
本ワークショップでは、まず、規制当局の先生方に、ICH S1がん原性試験ガイドライン改定の経緯及びCADの評価結果についてご紹介いただく。続いて、日米製薬企業及びFDAによる既存のがん原性データセットを用いた薬理作用による発がんについての解析結果をICH S1 regulatory chairのvan der Laan先生から、さらに、日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 基礎研究部会(JPMA)が公表資料を網羅的に調査してまとめた資料集に基づいた17の発がん標的からみた医薬品の薬理作用による発がん機序及びヒトでの発がんリスクについて報告をいただき、最後に医薬品の薬理作用からの発がん予測の可能性や課題について考察したい。