抄録
目 的
死産を体験した母親が悲嘆の過程において亡くなった子どもの存在をどのように捉えているのか,母親達の語りを記述すること。
方 法
質的記述的研究。一人2~3回,非構成的な面接法を用いてインタビューを施行した。インタビューテープを逐語録に起こし,各研究協力者の体験を記述し,亡くなった子どもに関連するテーマで共通性を見出した。その後亡くなった子どもを中心とした体験を記述・構造化し,質的帰納的に分析した。
対 象
周産期の喪失を体験した両親の集まるセルフヘルプグループに参加していた,死産を体験した5名の母親。
結 果
死産による喪失初期の子どもの存在は,母親にとって《苦悩を伴う存在》であった。その構成要素には,〈かわいい我が子〉,〈死者としての子ども〉,〈命を救えなかった子ども〉,〈社会では軽視される子ども〉,〈目の前にいない子ども〉があった。しかし時間の経過とともに,子どもの存在は《人生を共に歩む存在》として位置づけられていた。その構成要素は,〈母親としてのアイデンティティを育む語りにおける子どもの存在〉,〈安定した子どもの位置づけ〉,〈母親の人間的成長を促す子どもの存在〉であった。
結 論
喪失の初期には,子どもへの愛情を抱きながらも後悔や罪悪感,傷つき,空虚感といった苦悩が強かったが,時間の経過とともに,子どものことを語ることや思い出の品を通し,子どもを自分の人生に組み込み,人間的成長を遂げていた。この過程においては,死産という生きて共に過ごす時間をもたなかった子どもとの死別であっても,常に子どもの存在に向き合う母親達の姿があった。