主催: 日本毒性学会
会議名: 第44回日本毒性学会学術年会
開催地: パシフィコ横浜
開催日: 2017/07/10 - 2017/07/12
ジフェニルアルシン酸(DPAA)は五価の有機ヒ素化合物であり、急性毒性は比較的低いとされている。しかしながら、土壌に漏出したDPAAに汚染された井戸水を生活用水としていた住民が小脳症状を主とする神経症状を発症するという事故が発生した。その症状は原因判明後井戸水の使用を中止してもなお続いた。我々はこれまでにDPAAによる神経症状発症メカニズムの解明を目指し研究を行い、DPAAは小脳アストロサイトにおいて細胞増殖促進やMAPキナーゼ(p38MAPK、SAPK/JNK、ERK1/2)の活性化といった細胞生物学的異常活性化を引き起こすことを明らかにしてきた。本研究ではDPAAに加えてDPAAのフェニル基の一つをメチル基に置換したフェニルメチルアルシン酸(PMAA)と生体内における無機ヒ素の代謝産物であるジメチルアルシン酸(DMAA)の影響を評価し構造毒性相関解析を試みた。DPAAは濃度・時間依存性に一過性の細胞増殖とつづく細胞死を引き起こし、ばく露96時間後においては10μM程度で細胞増殖とより高濃度(50μM ≤)で細胞死を引き起こした。一方でPMAAはDPAAと異なり、ばく露後96時間において、10μM程度の濃度で細胞生存率の減少がみられたが50μMではその効果はみられず、さらに高濃度(100μM)では顕著な細胞死がみられた。DMAAはばく露後、細胞増殖促進効果も細胞毒性もみられなかった。また、MAPキナーゼの活性化については、DPAAが最も活性が高く、ついでPMAAがわずかに活性をみせた一方、DMAAは全くアストロサイトを活性化しなかった。以上の結果から、DPAAが有する二つのフェニル基がDPAAに特徴的な生物学的影響の表現型に重要であり、生体内等でメチル基に置換されるとその活性が著しく減弱すると考えられる。