抄録
胎児期あるいは生後発達期における化学物質の暴露は遅発性あるいは長期の神経毒性を起こす可能性があり、子供の健康を考える上で重要である。このような発達神経毒性は、原行の妊娠動物を用いた試験法により評価されているが、時間やコスト、種差などの問題があり、より簡便で予測性の高いin vitro評価系の開発が期待される。我々は発達神経毒性評価に対するヒトiPS細胞の応用可能性を検証し、ミトコンドリア機能による評価指標を見出した。我々はまず発達神経毒性の陽性対照物質、陰性対照物質に関する文献的な情報を国際コンソーシアムNeuToxと共有した。次に、ヒトiPS細胞に陽性対照物質を暴露した結果、ミトコンドリアが断片化されることを見出した。ミトコンドリアは環境条件によってその形態を変化させ、融合タンパク質(Mfn、Opa1)や分裂タンパク質(Fis1、Drp1)によって制御されることが知られているが、陽性対照物質の暴露によりヒトiPS細胞のMfnの選択的な分解が誘導された。興味深いことに、陽性対照物質の暴露によりヒトiPS細胞の神経分化も抑制された。この作用はMfnのノックダウンによって認められたことから、Mfnを介した新たなヒトiPS細胞の神経分化機構が示唆された。一方、陰性対照物質はミトコンドリア機能や神経分化に対して影響を与えなかった。以上の結果から、ヒトiPS細胞のミトコンドリア機能は、化学物質による発達神経毒性の評価指標となりえることが示唆される。本シンポジウムではin vitro発達神経毒性の国際動向についてもあわせてご紹介し、今後の展望について議論したい。