抄録
我々を取り巻く環境中には実に多岐にわたる化学物質が存在している。その中で、食品容器等の成分が食品に溶出することで、食事を介して体内に取込まれる化学物質もある。さらには、乳幼児であれば、母乳を介した影響も考えられる。これまでに様々な研究において、これらの物質によるエストロゲン系を始めとした内分泌系への影響が検討されている。しかし、環境化学物質に対する規制は国によって異なるという現状があり、さらには規制の基盤となるエビデンスも不足している。本シンポジウムでは、「食」にまつわる化学物質の内分泌系への影響について、最新の知見とともにこれまでの研究成果を紹介する。ポリカーボネート製の哺乳瓶などに含まれるビスフェノールAのフッ素化体であるビスフェノールAF(BPAF)は、エストロゲン受容体(ER)αのアクチベーターとして知られていたが(Matsushima et al., Environ. Health Perspect., 2010)、我々の検討において、BPAFはin vitroおよびin vivoにおいて女性ホルモン(E2)存在下ではERαに対する「部分アゴニスト」として機能することが示された。また、食品包装などにも用いられるフタル酸エステル類(可塑剤)は、内分泌撹乱物質としての疑いがあり、その中で、フタル酸ジペンチル(DPENP)やフタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)はE2/ERαシグナルを抑制した。さらに、近年、海洋生物が産生するフェノール性有機化合物について、母乳を介した乳幼児への影響が懸念されているが、その生体影響の詳細は未だ不明である(Fujii et al., Environ Int., 2014)。我々は、海洋生物に由来する天然臭素化ビフェニル(diOH-BB80)がERαの発現を低下させることでエストロゲンシグナルを顕著に阻害することを見出している。