【目的】殺虫剤の共力剤であるピペロニルブトキシドについて行動毒性試験を行い、雌マウスの行動に及ぼす影響の有無について検討する。
【方法】ピペロニルブトキシドを混餌法によりCD1マウスに0(対照群)、0.025%、0.1%、0.4%となるように調製して雌マウスに投与して行動に及ぼす影響について検討した。
【結果】雌マウスの平均摂餌量は5・6・9・11週齢の投与群で増加した。平均体重は2・28・42日目に高濃度投与群で抑制された。多様式T型水迷路試験では所要時間には投与による影響は見られず、錯誤回数は低濃度投与群で増加傾向が見られた。8週齢の探査行動では平均移動速度が用量依存的に抑制され、経時パターンは高濃度投与群で平行幅が有意に異なった。11週齢の探査行動では総移動距離が用量依存的に短縮され、経時パターンは高濃度投与群で平行幅が有意に異なり、水平移動回数は全投与群で減少し、平均移動速度は用量依存的に抑制され、経時パターンは高濃度投与群で平行幅が有意に異なった。また、立ち上がり回数は全投与群で減少した。
【まとめ】本実験においてピペロニルブトキシドの投与により、雌マウスの探査行動に用量依存的な影響が観察された。以前の報告で観察された雄マウスへの促進的な影響とは反対に雌マウスでは抑制的な影響が観察されたことから、ピペロニルブトキシドの行動に及ぼす影響には性差があることが示唆された。本実験で用いられたピペロニルブトキシドの用量はADI値を基に算出された(0.025%がADI値の約200倍相当)ものであるが、厚生労働省などが算出した人の食品からの摂取量(0.0326–0.570μg/kg/日)はADI値(0.20mg/kg/日)の1/100以下であるので、食品からの現実的なピペロニルブトキシドの摂取量では人に対して影響を及ぼさないものと思われる。