【目的】シフトワークによる概日リズムの攪乱が様々な疾患(発がん、肥満、高血圧など)の発症リスクを増大させることが疫学的に報告され、シフトワークが及ぼす健康影響の解析は重要な課題となっている。我々はマウスの概日リズムを攪乱すると、シフト開始6週間後に精巣機能(精子数及び精子運動能)が有意に低下することを本学会で報告してきている。今回、その誘発機構について検討を加えたので報告する。
【方法】雄性C57BL/6Jマウス(7週齢)を通常明暗条件(8:00-20:00照明)又はシフト明暗条件(2日毎に12時間明暗を逆転)で飼育後、1, 3, 6週間目に解剖し精巣を得て、精巣機能に関連する因子群の発現変動をRT-PCR法により調べた。精巣機能の測定には精子運動解析システム(CASA)を用いた。
【結果及び考察】先行研究により、明暗シフト群(シフト群)の血漿中testosterone (T)値が通常明暗群(対照群)に比べて有意に低下することを明らかにしている。そこで、T合成に関わる因子群、即ちミトコンドリアへのコレステロール取込みに関与するStAR及びT合成の第一段階を担うP450sccのmRNA量を調べたところ、両遺伝子ともシフト開始1週間後に有意に減少しており、T合成抑制に寄与する可能性が示された。また精子形成や精子運動においてZnは重要であるが、シフトにより精巣中Zn濃度が低下していた。そこで精巣のZn輸送因子について調べたところ、ZIP14のmRNA量がシフト開始1週間後に上昇していたことから、ZIP14の高発現が亜鉛減少を引き起こし、精子形成効率が低下した可能性も考えられる。さらに、精子の分化に関与する幾つかの因子についてもシフト開始1週間後に発現上昇が観察された。マウスの精子サイクルは約35日間である。このことから、シフト1週間前後での明暗逆転の光刺激が精子形成に関わる因子群の発現量異常を誘発し、これがトリガーとなってシフト6週間後の精巣機能低下を引き起こした可能性が考えられる。