【目的】血清と血漿は、タンパク質の網羅的測定に広く利用されている解析対象試料である。血清が全血を一定時間静置することによって血餅と分離されるのに対し、血漿は凝固防止剤を添加して血球成分を遠心分離することによって得られる。この時、遠心分離までの放置条件(温度・時間)からの逸脱や、血漿と血球との間に存在するバッフィーコート(BC)層のコンタミネーションなどが起こると、タンパク質組成に大きな影響を及ぼしうる。これらは研究室や臨床検査室における結果のミスリードにつながるため、どのようなタンパク質が放置条件やBC層コンタミネーションの影響を受けやすいかを解析した。
【方法】インフォームド・コンセントの下、健康成人男性4名の上腕部から全採血を行ない、EDTA採血管に7 mL分取した。これを直ちに遠心分離した条件N、4℃で6時間及び30時間放置後に分離した条件P及びS、室温で30時間放置後に分離した条件Wの4通りの血漿試料を調製した。条件Nについては、血漿画分の最上層をU画分、中間層をM画分、BCを確実に含む最下層をB画分として分取した。これらの検体中のタンパク質発現量を、アプタマーを用いる網羅的発現解析技術(SOMAscan)を用いて解析・比較した。
【結果及び考察】血漿試料P, S, Wにおいて、試料Nに比べて発現が変化したプローブは、それぞれ102, 99, 119種であり、169種がいずれかの調製条件で変化していた。放置により発現が増加するのはヒストン等の核内タンパク質等、減少するのはBtk等の血球系細胞が持つシグナル伝達分子が多かった。Histone H1.2はBC層の混入があるB画分でU画分の19.7倍の値を示した。Platelet factor 4など血小板に特徴的なタンパク質も増加していた。これらのタンパク質は、血漿試料の調製条件からの逸脱により試料中の混入量が大きく増減するため、これらのタンパク質が見かけ上変動している臨床検体由来の血漿試料は、その調製条件に、温度・時間・BC層のコンタミネーション等、何らかの不備があった可能性を考慮すべきと思われる。