金属やシリカ粒子は小さくすることによって単位重量あたりの表面積が増大し、化学反応効率が高くなる。その目的で「少なくとも一次元が100nmより小さい」と定義される多種の金属、シリカ、炭素等のナノ粒子の生産が増加している。生産事業所、消費者、生活環境における曝露対策が重要となりつつある。これらの物質は難分解性であるために肺に吸引されると肺胞・肺胞壁、胸膜等に沈着して異物炎症を誘発する。したがってナノマテリアルの有害性評価、とくに吸入曝露試験が必須であるがそれには高額な専用設備と稼働コストが必要であるために、屢々気管内投与試験が代替されてきた。多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は導電性に優れ、軽くて耐腐食性である特性から、リチウム電池、航空機、塗料等に使用されつつあるが、腹腔内投与によって幾つかのMWCNTに発がん性を示すもの見出された。しかし、腹腔内投与はヒトに外挿できない曝露ルートであるために、リスク評価には適しない。我々は吸入曝露に代わって経気管肺内噴霧投与(TIPS)を開発し、ナノサイズの二酸化チタニウム、酸化亜鉛、さらに多層カーボンナノチューブ(MWCNT)について発がん性の検証を行ってきた。MWCNTは肺内投与によって肺、胸腔、縦隔リンパ節等に持続性の異物反応を誘発する。そのために短期間投与し、以後無処置にて観察する方法によって障害性と発がん性について観察する方法を開発してきた。その結果、短期(2w)投与後2年間無処置観察にてMWCNT-NとMWCNT-7(固有名)に発がん性を見出した。この TIPS法について最近の結果を含めて紹介する。(厚生労働科学補助金・化学物質リスク研究事業および日本化学工業協会LRIによる)