【背景】前世紀後半から先進国では、男性の生殖器系異常、特に尿道下裂が増加傾向にある。この増加の原因に関して環境中の内分泌かく乱物質化学物質への曝露やその痕跡としてDNAメチル化変化が注目されてきた。近年私たちは、手ごろで高感度なメチル化プロファイルング解析法であるMSD-AFLPを開発した。そこで今回、尿道下裂発症の原因を探索するため、二つの陰茎異常(尿道下裂と包茎)の疾患間比較を、網羅的DNAメチル化解析(MSD-AFLP法)を用いてパイロットスタディを尿中元素分析とともに実施したので報告する。
【方法】尿道下裂(HS, N=3)及び包茎(PM, N=3)患者から提供された尿中の元素濃度のICP-MS解析、ならびに血液DNAと手術時に採取された包皮DNAを用いてMSD-AFLP法によるメチル化解析を行った。
【結果・考察】尿中元素レベルは、HS患者でルビジウムとカリウムが高く、ナトリウムが低い傾向にあった。有意差はないものの疾患間で異なる傾向が見えたため、因果関係を含め更なる検討が必要と思われた。MSD-AFLP解析では、HSとPMの間で統計学的に有意なメチル化レベルの異なる変化が検出された。その変化は面白いことに、血液DNAの方が顕著であった。
【結論】MSD-AFLP法は、臨床サンプルのなかでも低侵襲性で解析に使いやすい血液においても、疾患特異的なメチル化パターンを検出できることが示された。したがって、更に詳細な解析が必要であるが、「MSD-AFLP法」は、疫学研究における新規バイオマーカー探索への有用なツールとなると思われる。