メチル水銀は神経毒性を持ち、感受性の高い胎児への影響が懸念される物質である。メチル水銀の主な曝露源は魚介類であり、大型肉食魚(マグロやカジキなど)には比較的多くメチル水銀が含まれている。我々は、マグロ・カジキ摂取を介したメチル水銀の体内動態に関して、全血および毛髪の半減期を算出し報告してきた(Yaginuma-Sakurai et al., J Toxicol Sci. 2012:123-30)。今回、薬物動態解析ソフトを用いメチル水銀の体内動態に関して詳細な解析を実施し、体内半減期の再計算を行なったので報告する。薬物動態解析ソフトとしてPhoenix WinNonlin(Certara社)を用い、解析にあたって母集団薬物動態・薬力学ガイドライン(案)を参考にした。調査協力者にはメチル水銀の耐容週間摂取量に相当する量のマグロ・カジキを14週摂取してもらい、その後14週のwash-out期間を設け、1-2週間ごとに採血を実施した(N=27)。本発表では、血漿中水銀濃度および血漿中メチル水銀を使用し、メチル水銀の母集団体内動態(PPK)を解析し体内半減期を算出した。薬物動態の基本モデルとして、最小AICなどの情報からモデルの適合度が最も良い1コンパートメントモデルの指数誤差モデルを選択した。算出された水銀の消失速度定数の中央値は0.082となり、半減期の中央値は59日と算出された。またメチル水銀の消失速度定数の中央値は0.087となり、半減期の中央値は56日と算出された。先行研究で示された血中水銀の半減期は46〜53日であることから、母集団体内動態解析によってもほぼ同等の結果が得られ、モデルの妥当性が示唆された。今後、共変量を考慮したモデルを探索するとともに、得られたPKパラメータを用いて、より詳細なメチル水銀の体内動態のシミュレーションを実施する予定である。