【目的】特異体質性薬物性肝障害(iDILI)は医薬品の販売中止の主な原因の一つである。肝臓の非実質細胞(NPC)にはナチュラルキラーT細胞やクッパー細胞などの免疫細胞が含まれ,iDILIの発症機序にそれら細胞による免疫反応が関与する可能性が考えられている。そこで,肝細胞とNPCの三次元共培養系を用いることで,化合物によるiDILI誘発の検出可能性を検討することとした。【方法・結果】ヒト肝細胞とNPC(2ロット使用:NPC-1およびNPC-3)を三次元共培養し,Customized 3D InSight™ Liver Microtissue(hLiMT-NPC)を作製した(InSphero社)。免疫組織化学染色を実施したところ,microtissue中のT細胞(CD3+)およびクッパー細胞(CD68+)の存在が確認された。これらの免疫細胞数にはNPCロット間差(hLiMT-NPC-1>hLiMT-NPC-3)がみられ,それに伴い,LPS刺激による炎症性サイトカイン産生量も差が認められた。次に,LPS存在下または非存在下で,hLiMT-NPCをiDILIによる肝毒性が知られる薬剤(トロバフロキサシン,キシメラガトランまたはジクロフェナク)で7日間処理して細胞障害性を評価したところ,いずれの薬剤処理においてもLPS存在下でより顕著な細胞毒性が濃度依存的に認められた。特にLPS存在下において,hLiMT-NPC-3に比べhLiMT-NPC-1の細胞毒性が顕著であった(例:キシメラガトランIC50:それぞれ319.6 µMおよび69.0 µM)。一方,ヒト肝細胞とT細胞のみを共培養して作成したmicrotissue(hLiMT-T)を用いた細胞毒性試験では,LPSによる細胞毒性の増悪はほとんどみられず,キシメラガトランによる細胞毒性は最高濃度まで示されなかった(IC50 > 500 µM)。【結論】hLiMT-NPCを用いたことでiDILI誘発性化合物による細胞毒性が検出され,化合物のiDILI誘発性を検出するin vitro評価系として有用となる可能性があると考えられた。また,NPCロットの免疫細胞の特徴と本評価系の感度の関連性が示唆された。