【背景・目的】化学染料工場において膀胱がんの発症が多数報告され、その現場ではo-トルイジン(OT)や2,4-ジメチルアニリン(DMA)を含む芳香族アミン類が使用されたが、作業環境中の濃度が低いが、尿中から高濃度の芳香族アミン類またはその代謝物が検出された。従って、これらの物質は経皮吸収され、がんを誘発したと疑われている。OTはすでにIARCの発がん物質分類でグループ1となっているが、DMAはグループ3と分類されている。本研究は、DMAの職業性膀胱がんの発生における役割を解明するため、その経皮吸収性、体内分布及びDNA損傷性について検討した。
【方法】実験①: [14C]DMA液をリント布に滴下し、ラット背部皮膚に塗布した。8時間、24時間後にリント布を剥離し、全身オートラジオルミノグラムを作成後、各臓器における放射性を分析した。投与後は代謝ケージに収容し、3つの採尿区間に分けて尿を収集し、尿中における放射性を定量した。実験②:ヒト膀胱上皮由来の培養細胞(1T1細胞)を用いて、リン酸化ヒストンH2AX (γ-H2AX)を指標にDNA損傷性について検討した。
【結果】実験①については現在解析中である。実験②では、DMAに対して、1T1細胞において強いγ-H2AX応答が観察され、その作用はOTよりも顕著であった。DMAのDNA損傷誘導メカニズムを検討したところ、活性酸素種が大きな役割を果たしていることが判明した。またこれはCYP2E1が媒介する代謝反応の過程で起こり、そのため、この酵素の抑制剤やROS除去剤によってDNA損傷は大幅に軽減されることが観察された。
【考察】DMAの経皮吸収や体内分布は解析中であるが、インビトロ系を用いた検討では早い皮膚透過性が観察され、皮膚ばく露によるリスクを評価する必要性が示唆された。また、今までDMAの発がん性について不明な部分が多いが、本研究ではそのDNA損傷性はすでに知られているヒト発がん性物質であるOTよりも劣ることがなく、職業性膀胱がんの発生に関与している可能性が示唆された。