【背景・目的】食環境中には、病原性細菌等の生物学的リスク因子および有害化学物質等の化学的リスク因子が共存していることから、両者が共存した際のリスクを評価する必要がある。しかし、両リスク因子の複合暴露による各毒性発現の変動については明らかになっていない。そこで、本研究では、病原性細菌および化学物質の複合暴露による生物学的毒性の変動・影響について解析した。
【方法】エタノール、グリシドール等の7種類の化学物質を添加したBHI培地でStaphylococcus aureus No.29 (No.29株) を培養し、毒素 (SEA) 産生に及ぼす影響についてWestern blotを用いて解析した。また、リアルタイムRT-PCRを用いて、SEA遺伝子 (sea) および病原因子であるRNAIII、icaAおよびhlb の発現量を調べた。さらに、これら病原因子が化学物質の変異原性に与える影響を明らかにするために、アジ化ナトリウム等の変異原物質にS. aureusの培養上清を加え、Salmonella typhimurium TA98株およびTA100株 (±S9mix) によるエームス試験を行った。
【結果と考察】化学物質暴露後のNo.29株におけるSEA産生量およびその遺伝子発現量を調べたところ、エタノール (1.0% (v/v)) およびグリシドール (100 mM) の暴露により、SEA産生およびSEA遺伝子の発現量が有意に増加した。また、これら化学物質の暴露により、S. aureusの病原因子であるRNAIII、icaAおよびhlbの発現量が増加した。エームス試験の結果、TA100株 (-S9mix) において、アジ化ナトリウムにNo.29株の培養上清の3kDa以上の画分を添加したところ、復帰突然変異コロニー数が増加する傾向が認められた。これらの結果より、化学物質と病原性細菌の複合暴露により、生物学的毒性が変動することが示唆された。