【目的】薬剤性肝障害(Drug-Induced Liver Injury: DILI)は、医薬品の開発及び販売中止の主要な要因の一つである。DILI誘発性を有する薬物(DILI薬物)は、一日投与量や脂溶性が高く、胆汁トランスポーター阻害活性やシトクロムP450(P450)反応性を有することが報告されている。しかし、これらの特徴について、DILI誘発性のない薬物(no-DILI薬物)との明確な違いは明らかにされていない。そこで本研究では、DILI薬物及びno-DILI薬物間のP450反応性を評価し、その差異の解明を試みた。
【方法】221種のDILI薬物及び78種のno-DILI薬物を文献情報より選択し、市販薬物を購入して使用した。ヒト肝ミクロソーム又は組換えヒトP450を酵素源として、P450-Glo Assay System(Promega)を用いて8分子種のヒトP450に対する被験物質の阻害活性を評価し、阻害率が20%以上の時、被験薬物がそのP450分子種に対して反応性を有すると判定した。統計学的解析にはJMP Pro 12を使用した。
【結果】299薬物のヒトP450阻害活性を評価した結果、DILI薬物のCYP1A1及びCYP1B1に対する反応性(阻害陽性薬物の割合)は、no-DILI薬物に比べて有意に高かった。特に、CYP1B1では全299薬物中92種が反応性を示し、そのうち81種はDILI薬物(全DILI薬物中37%)、11種がno-DILI薬物(全no-DILI薬物中14%)と顕著な差が認められた。一方、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6及びCYP3A4に対する反応性では、DILI薬物とno-DILI薬物の間に有意差は認められなかった。
【考察】以上本研究では、DILI薬物は、医薬品代謝への寄与が大きいP450分子種にくらべて、寄与が小さいCYP1B1に高い反応性を示すという興味深い知見が得られ、薬物のCYP1B1反応性はDILI薬物とno-DILI薬物の判別指標として利用できる可能性を示した。今後CYP1B1反応性を有する薬物の化学的及び構造的特徴を解析することで、DILI薬物に共通な特徴を同定することが可能となると考えられた。