ご遺体の死因判断を行う法医分野において、薬物分析は重要な役割を担った分析である。近年では、多くの法医学教室といった解剖施設に、質量分析計が導入され、以前よりも精度の高い薬物分析が可能な設備は整いつつある。しかし、設備が整ったからといって、どこの解剖施設でも同じ薬物分析結果を得られているわけではなく、各施設で分析結果にバラツキがあるのが現状である。そこで現在10大学の法医学教室が集まり、薬物分析の品質管理・品質改善に向けたDrug Screening Method Sharing (DSMS)プロジェクトを実施している。
プロジェクトは、①連携体制の構築、②外部精度管理体制の構築、③法医解剖における薬物統計調査、を中心に実施しており、薬物分析の標準化を目指しながら、分析メソッドや試薬の共有といった分析業務の連携体制構築、分析結果の品質管理・改善に向けた体制構築、そして最終的にはプロジェクト内での品質管理された、精度ある全国的薬物統計調査を目標に取り組んでいる。本プロジェクトにより、日本では一施設にほぼ一人体制で分析を実施している法医学教室が多い中、自施設のみでは認識できなかった分析上の問題点を見つけ、改善ができるようになった。また、法医薬物分析に関して、情報の集約、情報共有などといった施設間での交流が密になったのも非常に大きな成果であると考えている。2014年から開始し、今年2019年になって5年目に入った。今回、このプロジェクトの紹介と成果、今後の課題について報告する。
*本プロジェクトは、旭川医科大学、香川大学、北里大学、国際医療福祉大学、信州大学、東京医科歯科大学、東京慈恵会医科大学、横浜市立大学、東京大学、千葉大学の各法医学教室メンバーにより実施しているものである。メンバーは随時募集中。法医分野に問わず、薬物分析に興味のある機関は是非お声がけください。