近年、神経疾患の病態解明や治療を目的として、転写因子遺伝子を導入することにより体細胞を直接ニューロンへと分化転換させる方法が開発された。しかし、遺伝子発現のオン・オフを決定する根本的な仕組み、エピゲノム動態の詳細は十分に分かっていない。我々は今回、転写因子NeuroD1(ND1)の強制発現によるミクログリアからニューロンへのダイレクトリプログラミングを基にして、エピゲノム変化に着目した分化転換の分子基盤解明を目指した。これまでにND1は、ミクログリアのヒストンバイバレント修飾(転写抑制性H3K27me3と活性化H3K4me3を同時にもつ)領域に結合し、ニューロン特異的遺伝子群の発現を上昇させることがわかった。また、ミクログリア特異的遺伝子群には、ND1によって発現が誘導された転写抑制因子が結合し、H3K4me3修飾を減少させ、H3K27me3修飾を増加させることで、その発現を抑制することがわかった。さらに、ND1発現ウィルスをマウス線条体に注入することにより、生体内でもミクログリアからニューロンへの直接分化転換が可能であることも明らかとなった。本講演では、これらのメカニズムとともに、その応用の可能性についても議論したい。