日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S2-5
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シンポジウム 2
遺伝毒性と環境化学物質の発がんリスク評価
*青木 康展
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抄録

環境中には多種多様な化学物質が排出されているが、その一部には発がん性や神経影響などの人への有害性が知られている。発がん性に関しては、WHO/IARCにより人での発がん性(グループ1)、あるいは、発がん性の懸念(グループ2A、2B)があると分類される化学物質が環境中に存在する。しかし、WHO/IARCの分類とは人で発がんリスクを増大させる可能性の「証拠の重さ」の評価である。化学物質の曝露による健康影響を未然に防ぐためには、有害性の定量的評価に基づく基準値の設定が行われている。大気中の化学物質については、わが国では健康影響が懸念される23物質が優先取組物質に選定され、うち5物質に環境基準、9物質に指針値が、主に疫学の知見に基づいて設定されている。グループ1、2A、2Bの物質のうち、ベンゼンには、発がん性の用量作用関係に「閾値なし」として、疫学の知見から環境基準が、塩化ビニルなど4物質にも同様の手法で指針値が設定されている。しかし、トリクロロエチレン(TriCE)、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、ダイオキシン類、アクリロニトリル(AN)については、神経影響などの発がん性以外の有害性から環境基準・指針値が設定されている。TriCEやANに関しては、幾つかの遺伝毒性の知見があるものの、その遺伝毒性が発がん性に関与する明確な証拠がない、あるいは、人で発がんの用量反応関係を示す知見が得られていないとして、発がん性をエンドポイントに採用しなかったと考えられる。一方、同じ環境からの化学物質曝露のリスク評価であっても、化学物質審査規制法のリスク評価では、TriCEやANなどには遺伝毒性の知見があることを評価し、動物への曝露実験での発がんの用量作用関係から実質安全量(VSD)を算出し有害性評価値としている。両者の評価値の違いは、リスク評価の手法の違いではあるが、リスク評価の考え方に起因する違いともいえる。この違いについて考察する。

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