日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S2-4
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シンポジウム 2
デキストラン硫酸ナトリウムを用いたマウス大腸2段階発がんモデルにおける大腸変異原性非発がん物質の発がん機序
*羽倉 昌志
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抄録

 動物にがんを発生させるには化学物質を繰り返し投与しても長期間を要する。皮膚や肝においてイニシエーションとプロモーションによる作用によって腫瘍を比較的短期間で発生させる2段階発がんモデルが知られている。いずれの臓器においてもイニシエーションのためにはそれぞれの臓器にがんを引き起こす発がん物質を投与し,プロモーションのためにはそれぞれの臓器で細胞の増殖を促進させる非変異原性物質の投与や処置(例,肝部分切除)を行う。

 大腸においても,イニシエーターとして大腸変異原性発がん物質アゾキシメタン(AOM)とプロモーターとして炎症誘発剤デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の組合わせによる2段階発がんモデルが開発されている。私たちは,この2段階発がんモデルにおいてAOMの替わりに大腸に変異原性はあるが発がん性はないベンゾ[a]ピレン(BP)を投与しても腫瘍が短期間で誘発されることを見出した(BP/DSSモデル)。更にBP以外の大腸変異原性非発がん物質をいくつか調べたところ,全化合物で腫瘍が短期間で誘発されたことを見出した。このことは,大腸に発がん性はなくても変異原性を示す物質であれば,炎症を呈する大腸に腫瘍が発生することを意味する。

 BP/DSSモデルは,マウスに5日間BPを投与し,9日間回復させた後,1週間のDSS投与により,極めて短期間(DSS最終投与後約1週間)で大腸腫瘍を誘発する。BPとDSSの投与間隔を9日から6か月に延ばしても,大腸にBPによる遺伝子変異は存在し,腫瘍が発生した。DSSを投与してからBPを投与した場合,腫瘍の発生はなかった。これらの結果はイニシエーションにおける遺伝子変異に加え,プロモーションにおける微小環境,特に炎症の重要性を示す。本モデルは大腸化学発がん機序を新しい切り口から解明する研究ツールとして有用であり,抗腫瘍性物質の探索にも利用できる可能性がある。

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