テトロドトキシン(TTX)はフグ毒として有名であるが、EUでは2016年にオランダ産の二枚貝(カキ)からTTXが検出され、欧州食品安全機関(EFSA)が海洋二枚貝に含まれるTTXのリスク評価の結果を2017年4月に発表した。その中でEFSAは、TTXとその類縁体のグループ急性参照用量(group ARfD: 0.25 µg/kg体重)を導出した。ARfDとは、ヒトがある物質を24時間以内に経口摂取した場合に、健康に悪影響を示さないと推定される一日当たりの摂取量である。
TTXのリスク評価はEFSAが最初であり、いくつか注目すべき点がある。一つは、ARfDの導出において、多数あるヒトのフグ中毒データについては多くの不確実性があり根拠として不十分であるとして参考情報に留め、TTX標準物質を雌性マウスに単回“経口”投与した際の急性毒性試験のデータを根拠(無気力(apathy)という一般状態変化を指標)として使用した点である。このEFSAの判断は、日本のマリンバイオトキシンの研究分野に大きな衝撃となった。さらに、TTXの毒性の強さは従来、致死時間を考慮した上での急性毒性死をエンドポイントとする「マウスユニット(MU)」という単位で示すのが慣例であるが、EFSAはMUではなくARfD 由来の「µg/kg体重」を使用した点である。1 MUは、生後4週、体重20gの雄性マウスに、フグ粗毒原液(肝、卵巣、筋肉由来)由来の調製液を“腹腔内”投与して30分間で死亡させる毒量と定義され、TTX 0.22 µgに相当するといわれている。我が国のリスク管理では10 MU/gを超えるものは食用不適と判断されている。
MUとARfDとでは、由来する実験動物の急性データのエンドポイントや投与経路等が異なる。TTXの毒性を見直すにあたり、従来のMUを用いる方法と新たなARfDを用いる方法との比較検討が必須と考える。