フグ毒テトロドトキシン(TTX)は、電位依存性Na+チャネル(Nav)を特異的に強力に阻害する。海洋生物ではカニ、タコ、巻貝などからも検出される。分析手法の高感度化に伴い、最近、ヨーロッパやニュージーランドで、二枚貝からも検出され、EFSA(欧州食品安全機関)により食中毒防止のための規制値が設けられた。一方、陸棲のイモリやカエルからもTTXが検出される。我々は、フグやイモリ、カエルから多くのTTX類縁体を単離、構造決定し、化学誘導体も作製した。その多くは、マウス腹腔内投与毒性試験、ラット脳シナプトソーム画分への結合試験、マウス神経芽細胞腫Neuro-2Aを用いた評価方法、および電気生理実験(共同研究)などの方法でNav阻害活性を評価した。測定方法が異なり直接比較できない類縁体もあるが、TTXの構造活性相関に関するデータを得た。それは最近報告されたCryo-EMによるTTXとNavの結合像を支持していた。
TTXは細菌が生産し、食物連鎖を介してTTX含有生物に蓄積すると考えられるが、生合成機構や生合成遺伝子は未だ解明されていない。我々はTTXの天然類縁体および関連化合物の構造に基づき、生合成経路を推定してきた。イモリから単離したTTX関連グアニジノ化合物群の構造から、陸上環境下のTTXがモノテルペンから生合成される経路を提唱した。しかし、両生類由来のTTX類縁体の多くは、海洋生物では検出されない。フグからは別のスピロ二環性グアニジノ化合物群を単離、構造し、他の海洋生物にも存在することを明らかにした。これらの化合物群は、その構造からTTXの前駆体と考えられ、多段階の酸化反応やアミドの加水分解、ヘミアミナールやラクトン形成反応を経て、フグなど海洋生物中の主要な類縁体5,6,11-trideoxyTTXに変換され、さらに段階的な酸化反応によってTTXを生成する生合成経路を推定した。