日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S3-5
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シンポジウム 3
フグを中心とした海産物による食中毒の臨床
*黒澤 慶子杉田 学
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抄録

臨床現場では中毒症例は意識的に状況を把握しければ難しいケースが多い。中毒の判断ではその病歴が重要であり、かつ症状から推察するトキシドロームを抑えていないと中毒起因物質の特定に時間を要し、治療介入を遅らせることとなる。マリントキシンとしてよく知られているのは、テトロドトキシン(TTX)でありフグ毒はそのトキシドロームから念頭におかれるものの一つである。TTXの症状は口唇部・指先の痺れといった軽症から、骨格筋の弛緩により運動麻痺となり呼吸停止から死に至る重症まである。厚生労働省の報告によると2003年から2017年のフグによる食中毒発生状況は407 件、平均31件/年の事件が発生し、75%が家庭内発生となっている。今回家庭内調理により発生したフグ中毒の1例を紹介する。原因食品別事件数では、魚介類・魚介類加工品での食中毒は全体の20%を占めている。重篤な症状は呈さないが、海洋生物での中毒としてアナフィラキシー様症状で来院する患者に見られるものにヒスタミン中毒があり、赤身魚のヒスチジンをMorganella morganiiなどのヒスタミン産生菌がヒスタミンに変換し発症する。報告例だけで2015年は405人、2016年は283人の患者数があり厚生労働省、農林水産省などが注意喚起を行っている。その他消化器症状を示すものには、アニサキス症、ノロウイルス、腸炎ビブリオなどの食中毒も散見され、症状評価や病歴聴取などを行いながら時節を考慮し診療を行う。臨床現場で直面する中毒症例以外にも、メチル水銀に対して主に胎児への健康が懸念されているため、妊婦への魚介類の摂食に関する注意事項が公表された。詳細なパンフレットが産婦人科外来に提示されているところもある。この様に海洋生物による食中毒は様々であり、各方面からの対策が取られており、マリントキシンのみでなく関連生物も念頭に置きながら診療を行なっている。

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