本発表では実験動物の血液生化学的検査における種差を取り上げ,溶血が測定結果に及ぼす影響とアイソザイム検査における種差について概説する。
血液生化学的検査において,溶血が測定結果に影響を及ぼす事は広く知られており,乳酸脱水素酵素(LDH)活性や総ビリルビン濃度等は正誤差を受ける。前者は血球からの測定対象物質の逸脱であり,後者は測定対象物質とヘモグロビンの極大吸収波長が近似している事に起因した光学的な干渉である。溶血は測定系に多様な影響を及ぼすが,実験動物においては,その影響に種差がある点に留意する必要がある。例えば肝障害マーカーのグアナーゼは,げっ歯類では溶血によって正誤差を示すが,イヌは影響を受けない。一方,心筋・骨格筋障害マーカーのクレアチンキナーゼは,イヌ及びラットでは正誤差を示すが,マウス及びハムスターはほとんど影響を受けない等の違いを示す。よって,溶血試料から得られた測定値の評価には,1)使用している測定系が溶血の干渉を受けるか 2)測定対象物質の体内分布,3)種差の理解が必要である。
血液生化学的検査では,アイソザイム検査でも種差の存在が知られている。アイソザイム検査は障害臓器を特定する上で有用な検査法であるが,そのパターンは動物種ごとに異なるため注意が必要である。例えばLDHにはLDH-1~5のアイソザイムが存在し,ヒトの正常血漿中ではLDH-1~3が総活性の90%以上を占めているのに対し,ラットは大半がLDH-5で,ハムスターやウサギではLDH-1で構成されている。また,アルカリフォスファターゼには肝臓,骨及び小腸型(妊娠期には胎盤型)のアイソザイムが存在し,ラットでは肝臓,骨及び小腸型の確認が可能であるが,イヌは肝臓及び小腸型の血中消失速度が速いため,正常状態では骨型のみ確認が可能である。
以上のように,血液生化学的検査では,検査項目ごとの種差を考慮した慎重な測定及び評価が求められる。