日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S16-2
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シンポジウム16
関門としての胎盤:薬物透過制御機構とその種差
*登美 斉俊野口 幸希西村 友宏
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抄録

薬物の胎児影響評価はラットに頼る部分が大きく、ヒトへの外挿精度向上は重要な課題である。そのため、我々は薬物の胎児移行性種差に関与する因子を同定し、ヒトへの外挿精度を高めるための研究を進めてきた。第一に挙げられる因子は血漿中アルブミンの母胎間濃度差である。薬物の胎児移行性はほとんどが胎児/母体血漿中濃度比(Kp,fetal plasma)で評価されるが、妊娠満期のヒト胎児血漿中アルブミン濃度は母体血漿中の1.2倍であるのに対し、ラットでは約半分である。そのため、アルブミン結合薬物の少なくとも一部はラット胎児血においてのみタンパク非結合分率が高くなり、結果としてラットKp,fetal plasmaはヒトと比べて低値となるため、胎児移行性を見かけ上低く見積もる可能性がある。我々は、digoxinおよびindomethacinのラットKp,fetal plasmaは、いずれもヒトKp,fetal plasmaの半分以下であったが、ラットを胎児/母体血漿中非結合形濃度比(Kp,uu,fetal plasma)で評価すると、ヒトKp,fetal plasmaと同程度となることを明らかにしている。これは、ラット胎児移行性評価にKp,uu,fetal plasmaを用いることの有用性を示す結果である。第二に、胎盤関門の細胞膜に発現する薬物輸送体も重要な因子である。霊長類のみに存在する有機アニオン輸送体OAT4は、胎盤関門に発現し、げっ歯類では機能していない胎児胎盤系エストロゲン合成ユニットの一端を担う。そして、OAT4はオルメサルタンなどアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の輸送にも関与している。ARBはヒト胎児毒性により妊婦禁忌であるが、ラットでは強い胎児毒性が示されていないため、OAT4が胎児毒性における種差と関係している可能性が考えられる。今後、薬物の胎盤透過に果たす薬物輸送体のインパクトとその種差について、非結合形薬物濃度を基準とした定量的な解析に基づき評価することが、ヒト胎児毒性リスク評価の精緻化に大きく貢献すると期待される。

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