日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S16-3
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シンポジウム16
胎盤における免疫毒性:妊娠異常におけるインフラマソームの役割
*白砂 孔明
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抄録

次世代を残すための様々な妊娠機構に対して免疫応答が関与する。例えば、マクロファージが卵巣機能を調節して着床・妊娠を維持する、半異物である胎児の許容には制御性T細胞が重要であるなど、その働きは多岐に渡る。一方、免疫機構の破綻や過剰な炎症性サイトカイン産生等によって着床障害、流・早産、妊娠高血圧腎症(preeclampsia、PE)等が起きる。多くの異常妊娠では病原体等の感染は関与しておらず、どのように炎症が惹起されるのかは不明である。このような炎症は『無菌性炎症』と認識され、その誘導経路の1つであるインフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体が注目されている。

インフラマソームは、体内に蓄積した様々なdanger/damage-associated molecular patterns(DAMPs)や主に病原体由来で外因性のpathogen-associated molecular patterns(PAMPs)に反応して炎症応答を誘導し、代表的な炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)1β産生を厳密に制御する免疫機構である。最も研究が進んでいるのがNLRP3インフラマソームであり、NLRP3とアダプター分子ASCが会合し、その下流でCaspase-1が活性化される。IL-1βは前駆体として存在し、活性化Caspase-1により切断されて分泌・生理活性を発揮する。NLRP3インフラマソームは、尿酸結晶、コレステロール結晶、遊離脂肪酸、細胞外DNAや細胞外小胞など、多岐に渡る内因性DAMPsに応じて活性化が起きる。

過剰なNLRP3インフラマソーム活性化は、痛風、糖尿病、動脈硬化、アルツハイマー病など様々な炎症性疾患を誘導する。また近年になって、NLRP3インフラマソームがPE、肥満妊娠、流・早産などの多くの異常妊娠に関与することが分かってきた。PE発症には胎盤の免疫異常が関与し、胎盤が慢性的な低酸素や炎症環境に暴露され、増加した抗血管新生因子やIL-1β等の炎症性サイトカインが母体に流出することで血管内皮障害を惹起し、PE病態が出現する。

本発表では、胎盤を中心にNLRP3インフラマソームが暴走することで異常妊娠が誘導される事象について紹介したい。

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