日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S4-2
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シンポジウム4
活性硫黄による親電子ストレス制御
*居原 秀
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抄録

メチル水銀(MeHg)などの環境中に存在する親電子分子は、生体内の親電子環境を撹乱し、細胞毒性を示すこと(親電子ストレス)が知られている。これまでに、MeHgの毒性発現には、その強力な親電子性によるタンパク質の不可逆的修飾や、細胞レベルでの酸化ストレス誘導が関与していると考えられてきた。我々は、MeHg毒性が、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)により増悪され、nNOS由来のNO、活性酸素種に依存して産生される親電子性レドックスシグナル二次分子8-ニトログアノシン- 3',5'-環状一リン酸( 8-ニトロ-cGMP)により媒介されることを明らかにした。8-ニトロ-cGMP は、標的タンパク質のチオール基にcGMP構造を付加するS-グアニル化反応を介して、様々な生理・病理機能を制御している。MeHg処理により増加した細胞内8-ニトロ-cGMPは、標的タンパク質であるH-RasをS-グアニル化、活性化し、下流のERK1/2、細胞死シグナルを活性化する。また我々は、レドックスシグナルの制御因子として、チオール基に硫黄原子が過剰に付加したシステインパースルフィドなどの活性硫黄分子種(RSS)を発見した。RSSは、非常に高い抗酸化活性を示し、また8-ニトロ-cGMPを8-メルカプト-cGMPに変換することによってレドックスシグナルを制御している。神経細胞をMeHgで処理すると、RSS、8-メルカプト-cGMPが減少し、RSSドナーで神経細胞を前処理した後MeHgで処理すると、細胞内RSSの減少は回復し、MeHg毒性は軽減される。以上の結果から、親電子ストレスの新しい発現機構として、親電子物質によるRSSの枯渇を介するレッドクスシグナルの破綻が明らかとなった。

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