Patient Centricity(PC)とは「患者中心」を意味する概念であり、患者を取り巻く医療機関、薬事規制当局、製薬企業の3者が「患者を常に中心に据え、患者に焦点をあてた対応を行い、最終的に患者本人の判断を最大限に尊重すること」とも解釈されている。患者・市民参画、Patient Involvement、Patient Engagementも同義語として用いられている。PCの認識は欧米に比して日本ではまだ低く、製薬企業の具体的な活動も限られている。日本製薬工業協会は、医薬品開発におけるPC活動を、「開発コンセプトの立案、治験の計画、実施、承認・申請までの過程に患者の声を活かすことに加え、患者の「知りたいという声」に応える企業活動(例えば情報公開)も含む」と定義した報告書(2018)を公開している。医薬品開発におけるPC活動としては、患者の意見を取り入れた治験デザインや同意説明文書の作成、患者報告アウトカムの活用、治験結果の患者との共有、社内向け患者講演会などがある。さらに、医薬品開発以外においてもPC活動は必要であり、患者視点での製剤設計、製品情報・副作用情報の提供などは具体的活動に落とし込みやすい。PC活動における毒性学の役割は、患者が求める安全性情報を患者にわかりやすい形で必要に応じて提供することへの貢献と思われる。例えば、ある大学付属病院で実施された治験の参加者を対象とした治験説明に関する調査で、「治験薬の副作用」、「治験薬の特徴と効果」、「健康被害の補償」の理解度が低かったと報告されている。同意説明文書のこれらの内容を患者・市民の視点で改善することは、患者の理解度向上や治験参加への不安の軽減に貢献できるであろう。ヒト初回投与試験の場合、安全性データは非臨床試験のみであり、試験結果を治験参加者が理解しやすく記載する必要がある。患者・市民参画ガイドブックなども参考にPC活動への毒性学の関わりについて考察する。