日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: EL6
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教育講演
亜鉛イオン神経毒性の制御による進行性神経変性疾患の新規防御戦略
*武田 厚司
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抄録

アルツハイマー病、パーキンソン病の原因は明らかでなく、根治治療法がないのが現状である。これら進行性神経変性疾患のリスクファクターに加齢があり、加齢に伴う脳細胞外Zn2+動態の変化がこのリスクファクターと関連すると仮定し、研究を展開してきた。定常時の神経細胞内Zn2+濃度は約100 pMであるのに対して、細胞外Zn2+濃度は約10 nMと高く、加齢に伴い増加する。加齢に伴う細胞外Zn2+恒常性の変化と関係するZn2+流入が神経細胞内Zn2+恒常性を破綻させ、細胞死を惹起すると仮定した。アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβ(Aβ)の神経細胞内集積はその発症と密接に関係すると考えられている。脳細胞外液に放出されたAβ1-42は100~500 pMに達すると、細胞外Zn2+と結合し、シナプス神経活動に依存せずに海馬神経細胞に速やかに取り込まれる。細胞内では、Zn2+はその濃度が低いためにZn-Aβ1-42から遊離し、毒性を示す。パーキンソン病では黒質緻密部ドパミン作動性神経の選択的な細胞死が知られている。パーキンソン病モデル作製に用いられる6-hydroxydopamineや除草剤パラコートをラット黒質に投与すると、これらのドパミン神経毒はドパミントランスポーターを介して細胞内に取り込まれ、活性酸素を産生する。そのなかで過酸化水素は逆行性に輸送され、ドパミン作動性神経に投射するグルタミン酸作動性神経終末を興奮させる。その結果、細胞外Zn2+はZn2+透過性GluR2欠損 AMPA受容体を介して速やかにドパミン作動性神経細胞に流入し、Zn2+恒常性を破綻させて細胞死を惹起する。神経細胞内Zn2+恒常性維持はこれら神経変性疾患の新たな予防戦略につながる。ここでは神経細胞内Zn2+恒常性の破綻とその制御について紹介する。

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