日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-12
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ポスターセッション
メチル水銀毒性センサーの開発
*住岡 暁夫藤村 成剛臼杵 扶佐子
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抄録

メチル水銀(MeHg)は環境中の汚染物質で、脳内で神経細胞死を引き起こす。MeHgの作用は主に酸化ストレス経路を介すると考えられているが、毒性作用の神経細胞間の特異性や発達段階依存的な違いを司るメカニズムなど不明な点を残している。毒性機序の解析にあたっては、採取した組織の総水銀量測定などの手法では、MeHgが脳に到達し毒性を発揮する時期や場所を適切に捉えたうえで目的とする解析を実施するのは困難である。そこで、この問題を解決するべくMeHgの毒性センサーベクターの開発に取り組んだ。

初めに、セレノプロテインTrxR1のC末端側にタグ配列を融合した発現コンストラクトを作成し、培養細胞に遺伝子導入した結果、MeHgの投与によって全長TrxR1の発現低下がSDS-PAGE、Western Blotで観察された。この結果から、MeHgへの曝露によってセレノプロテインの翻訳時にセレノシステイン(Sec)の挿入が障害を受ける、新たな毒性モデルを明らかにした。

次に、MeHgによるSecの挿入障害を利用し、レポーター遺伝子に人為的にSec残基変異を導入したベクターを設計し、培養細胞系で評価を行ったところ、MeHg依存的に減少するシグナルを確認した。しかし問題点として、定常状態下のSecの挿入効率の低さが明らかになったので、Sec挿入に関与すると考えられているSec周辺配列、Sec挿入酵素SBP2、Sec挿入シグナルの影響を検証した。最後に、MeHg依存的なシグナル増大を得られる新たなセンサーベクターを設計し、培養細胞系でMeHgに対する用量依存性、特異性の評価を確認した。

今回開発したセンサーベクターは、細胞・生体でMeHgによる毒性を時間的、空間的、特異的に捉え、MeHgの毒性機序や環境中を想定した複合曝露の解析に役立つと期待できる。これらの結果を報告するとともに、議論を行いたい。

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