【背景】我々は生後に始まる海馬神経新生が発達神経毒性の高感度エンドポイントとなり得る可能性を報告してきた。エタノール (EtOH) は妊婦のアルコール摂取により子供の中枢神経発達障害を含む胎児性アルコールスペクトラム症候群のリスクを高めることが知られている。我々は昨年の本学会で、EtOHのラット発達期曝露により離乳時の海馬神経新生部位である歯状回 (DG) でのtype-3神経前駆細胞の減少とtype-2a神経前駆細胞の増加、成熟後の顆粒細胞のシナプス可塑性の低下を報告した。本研究ではラットに一般毒性試験の枠組みでEtOHを28日間反復曝露し、DGでの神経新生への影響を検討し、発達期曝露による影響と比較した。
【方法】生後5週齢の雄性SDラットにEtOHを0, 10, 16% (v/v) の濃度で28日間の反復飲水投与を行った。最終投与翌日にDGの顆粒細胞層下帯 (SGZ) /顆粒細胞層 (GCL) における神経新生の各段階の細胞数とシナプス可塑性関連の最初期遺伝子産物陽性顆粒細胞数、及び歯状回門における各種のGABA性介在ニューロンの分布を免疫組織化学的に検討した。
【結果】EtOHの投与により絶対脳重量が低下した。神経新生では高用量群で顆粒細胞系譜のうちGFAP陽性細胞、SOX2陽性細胞の数が減少した。GABA性介在ニューロンでは高用量群でparvalbumin陽性細胞数が増加した。また、シナプス可塑性に関連して、高用量群でc-FOS陽性顆粒細胞数が減少した。
【考察】EtOHのラット28日間反復投与は、発達期曝露と対照的に曝露終了時にtype-1神経幹細胞及びtype-2a神経前駆細胞の減少を促し、それにはparvalbumin陽性介在ニューロンシグナルの増加による神経幹細胞の自己複製および神経前駆細胞への分化の抑制が関与していることが示唆された。また、発達期曝露における遅発影響と同様にシナプス可塑性の低下が認められた。