吸入剤は、薬剤を気道等に効率的に送達できるため、肺疾患に対しては、全身ばく露を回避することで副作用を抑制しつつ、より少ない用量で効果を発揮することができる。今日、COVID-19の治療を目的として、肺胞領域に到達するステロイド剤やCOVID-19に対する抗ウイルス薬等の吸入剤の必要性が高まっている。一方、肺は非常に広い表面積と密な毛細血管を有することから、経口吸収性等に課題のある薬剤の全身作用を目的とする投与経路として注目されている。このような理由から、肺疾患を含む多様な疾患に対して、有用な吸入薬の開発が期待されている。
しかしながら、薬物の物理化学的性質に応じた粒子径を制御するための製剤設計と、適切なエアロゾルの動物への吸入ばく露を含む非臨床試験の技術的障壁は高いため、吸入剤の研究開発は容易ではない。
そこで、我々はCOVID-19治療薬の迅速開発に資する非臨床段階における基盤評価技術の開発を目的として、ラットを用いた肺胞領域への薬物送達の評価法の開発に取り組んでいる。これまでに、吸入ばく露装置を独自に開発するとともに、COVID-19に対する治療薬候補である喘息治療用プロドラッグ型コルチコステロイドの吸入シクレソニドをモデルとして、脱離エレクトロスプレーイオン化-飛行時間型質量分析法によるラット肺内の薬物や代謝物の精緻なイメージング分布評価法を開発した。さらにイメージング評価後の切片の病理評価も可能であることを実証し、本評価法の有用性を確認した。
本講演では、医薬品開発における非臨床試験を想定した質量分析法による薬物等のイメージング評価技術と、実験動物用吸入ばく露装置を紹介し、効率的な吸入剤開発に繋がる有効性・薬物動態・安全性の評価について議論したい。