日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: S28-3
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シンポジウム28
化学テロと吸入剤による中毒-新しい脅威(0pioid)を踏まえて
*大西 光雄
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抄録

 第一次世界大戦から化学兵器は広く使用されるようにり、その後数々の化学兵器が開発されてきた。化学兵器が使用されたとする紛争は近年でも存在し、日本ではテロとして使用された経験があり、現在進行形の脅威である。化学兵器に使用される化学物質である化学剤の代表的な分類として、神経剤、びらん剤、窒息剤、シアン化物・血液剤、無能力剤、催涙剤、嘔吐剤がある。主たる暴露経路としては、吸入、皮膚や眼への接触、経口があり、暴露経路により毒性の現れ方や症状が異なる。エアロゾルの場合、主たる経路は吸入であるが、皮膚への付着など複数の経路で同時に暴露することが考えられ、対応を難しくする可能性がある。

 化学剤による中毒を考える際、平時からの準備、対応する際の指揮命令系統といったシステム、対応者および対応空間に対する安全対策、剤が使われたと覚知すること、治療薬の備蓄、またこれらの検証をかねた訓練のあり方など様々な課題に取り組まなければならない。

 日本ではサリンのテロを経験していることから、化学テロ対策として神経剤を想定した取り組みが行われることが多い。しかし、無力化剤としてのOpioid、特にFentanyl系の化合物によるテロが世界的に危惧されている。これらは合成が容易で強力な作用を有するとされ、エアロゾルとして散布された場合、短時間で呼吸停止をきたすため、多数の死傷者が発生することが懸念される。神経剤とopioidは共に縮瞳を呈するため鑑別が必須となるが、現時点では複数名が縮瞳し呼吸停止をきたしている段階で、神経剤としての対応が始まるおそれがある。それぞれに対する治療薬は異なるが、ともに吸入だけでなく経皮吸収も考慮しなければならない。

 化学テロに対して、何が世界の耳目を集めているか、常にアップデートしながら様々な想定を行い取り組むことが求められている。

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