主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
異物応答性核内受容体であるCAR及びPXRは、肝に高発現し、多種多様な化学物質によって活性化されてシトクロムP450をはじめとする種々の薬物代謝酵素の転写を介して肝における異物除去に働く受容体型転写因子である。両受容体は化学物質からの生体防御において中心的な役割を担っており、化学物質の毒性発現機序の理解や安全性評価のため、両受容体の活性化機序や機能発現機序の解明が求められている。我々は、両受容体による肝細胞増殖及び肝発がんの制御に関する研究を進めている。両受容体は、構造的及び機能的に非常に類似しており、協調的に機能していると考えられているが、肝細胞増殖の誘導に関しては、異なる機能を有することを見出した。
CARの活性化は、齧歯動物において肝細胞増殖、肝がんを誘導する。従って、医薬品や農薬などの化学物質開発時に実施される発がん性試験において、CAR活性化物質は肝がんを生じることが多い。実際、ラット肝がんを引き起こすことが報告されている数十種類の化学物質の核内受容体活性化作用を評価したところ、約8割がCAR活性化作用を示すことを見出した。すなわち、化学物質による肝発がんの多くがCAR活性化に起因すると考えられた。一方で、疫学研究からCAR依存的な肝発がんには種差が存在し、ヒトでは起こらないとされている。しかし、齧歯動物における発がん機序が明確になっておらず、CARを介した肝発がんの種差の原因に関する科学的知見もなかった。最近、我々は、臓器サイズ制御に関わる細胞内シグナルであるHippo経路のエフェクター分子であり、肝細胞増殖・肝発がんの促進因子であるYAPが、CAR依存的な肝細胞増殖において重要な役割を担うことを報告した。
PXRは、異物に対する生体防御においてはCARと協調的に機能することから、PXRもまたCARと同様に肝細胞増殖や肝がんを誘導すると考えられていたが、個体レベルでそれを示した報告はなく、PXRと肝細胞増殖の関連性については長く不明であった。我々は、マウス肝におけるPXR活性化の肝細胞増殖及び肝発がんへの影響について研究を進め、PXRは、CARとは異なり単独の活性化では肝細胞増殖作用を示さないこと、また、癌抑制遺伝子等の転写を抑制することで増殖刺激に対する肝細胞の感受性を亢進させ、様々な刺激による肝細胞増殖に対して増強作用を示すことを報告した。
本講演では、上記内容を中心にCAR及びPXRによる肝細胞増殖制御に関する我々の研究成果を紹介する。