日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: IL
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年会長招待講演
ワンヘルスを推進するための環境毒性学の可能性
*岩田 久人
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抄録

 ワンヘルス(One Health)は、ヒト・動物・生態系の健康を持続的に調和・最適化することを目的とした統合的なアプローチである。現在世界的に問題となっている人獣共通感染症や薬剤耐性に関する研究の展開に伴い、公衆衛生学・獣医学分野の研究者によってワンヘルスは明確に認識されつつある。一方、環境毒性学研究者は近年までワンヘルスを意識してこなかったが、環境汚染物質問題をワンヘルスの視点で研究する基盤の構築は、ヒト・動物・生態系の健康に関する知見を統合し、地球上の全ての種の健康を監視・評価・保全するための活動を加速させる機会を提供するであろう。環境毒性学研究者の多くは学際的な環境科学研究者と連携してきたので、環境汚染物質問題のワンヘルスを推進するのに適している。

 我々はこれまでに、環境生物・非モデル生物を対象に環境汚染物質の影響とリスクに関する研究に従事してきた。その過程で、これら生物由来の細胞内受容体(AHR・PPAR・ERなど)のcDNAクローンを用いて構築したin vitro実験系が環境汚染物質に対する選択性や感受性を予測し、リスクを評価するためのツールになることを示してきた。さらに、これら受容体タンパク質のin silicoホモロジーモデルや環境汚染物質とのドッキングモデルは、多くの場合in vitroで得られた結果を支持しており、in silicoによるハイスループットなリガンドスクリーニングの可能性を示唆した。近年では、環境生物から単離した線維芽細胞や、線維芽細胞から誘導した神経細胞を用いたin vitro実験系での環境汚染物質のリスク評価法の確立に取り組んでいる。また野生個体群を対象に、トランスクリプトーム・プロテオームの解析により、環境汚染物質の影響評価も試みている。

 本発表では、これら成果とともに、環境汚染物質問題のワンヘルスを推進する際の課題と展望についても触れたい。

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