日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: SL
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特別講演
メチル水銀の胎児影響
*坂本 峰至
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抄録

 水俣病の原因物質は、チッソ水俣工場のアセトアルデヒド製造工程で副生されたメチル水銀である。成人の水俣病患者における神経病変は大脳の特定部位と小脳に起こり、傷害部位に応じた神経症状を呈した。さらに、脳性麻痺の症状を呈する子どもの多発が、汚染が最も激しかった時期に確認されて研究者らの注目を集めた。後になって、胎盤を介したメチル水銀による胎児性水俣病であることが確認された。妊娠・出産時の児は正常に見えたが、授乳期以降の首がすわらない、言葉を発しない、歩かないなどの運動機能や精神の発達遅滞によって、母親は子どもの異常に気づいた。昨年放映された「MINAMATA」の主人公であるユージン・スミスが撮った重篤な症状を呈する胎児性患者を抱きかかえて入浴する母親の写真は、胎児性水俣病の特徴を示す象徴的な一枚と言える。胎児性患者の母親が話す「子どもが毒を吸い取ってくれたから自分は無事であった」という言葉が印象に残った。

 私が国立水俣病研究センター(現、国立水俣病総合研究センター)で研究を始めた当時、WHOが発行した「環境保健クライテリア101メチル水銀(1990)」は、特にメチル水銀の胎児影響についての研究が必要であると勧告していた。水銀研究の第一人者であった故鈴木継美先生から「君の武器となる研究をはじめなさい」という助言を受けたこともあり、次世代を担う胎児の脳をメチル水銀の毒性から守るリスク・マネージメントに繋がる研究を行うことを決めた。

 本講演では以下の話題を紹介する。①水俣病の背景と胎児性水俣病発生、②母親から児への胎盤や母乳を介するメチル水銀移行、③臍帯中メチル水銀濃度が示した汚染の推移、④水俣病における男児出生性比の低下、⑤脳の発達ステージごとの高感受性部位、⑥セレンによるメチル水銀毒性防御、⑦妊婦における魚食のリスクとベネフィット、⑧水俣病におけるセレン濃度上昇。

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