主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【背景】髄腔内投与は,髄腔内へ薬剤を注入することで血液脳関門の影響を受けずに,中枢神経系に薬剤を送達することができる投与手法である.我々のカニクイザルでの旧手法では,投与後の血漿中の薬物濃度に個体差がみられないにも関わらず,大槽脳脊髄液(CSF)中の薬物濃度には顕著な個体差がみられた.また,文献等においても投与後の大槽方向への薬物の到達が不十分な個体がいることが報告されている.そこで我々は,複数の文献情報をもとにカニクイザルにおける腰部髄腔内投与方法の改良を重ね,大槽CSF中薬物濃度のばらつきを抑制する投与条件を見出したので報告する.【方法】年齢3~6歳,体重2.4~7.0 kgの雄カニクイザル12例を用いた.吸入麻酔下で第5~6腰椎間にスパイナル針を穿刺し,4.2 mg/mLの色素(エバンスブルー)溶液を2.4 mL/個体の投与容量で,2 mL/分の投与速度で髄腔内に投与した.投与1時間後のCSFを大槽から採取し,マルチスキャンアセントで620 nmでの吸光度を測定し,CSF中の色素濃度を算出した.更に3例については,1週間の休薬後に2回目の投与を実施し,実験結果の再現性を確認した.【結果】12例中9例では10000 ng/mLを上回るCSF中の色素濃度が確認されたが,2例は約5000 ng/mL,残りの1例は約150 ng/mLであった.動物の体重を指標に区分すると,体重が小さい個体では大槽への色素の到達が良好であるのに対し,体重が大きくなるにつれてCSF中の色素濃度のばらつきが大きくなり,低値を示した.また,2回目の髄腔内投与を実施した3例では,CSF中の色素濃度の傾向に再現性が確認された.以上の結果から,我々が改良したカニクイザルにおける腰部髄腔内投与方法に,動物の体重を考慮することで,大槽CSF中の薬物濃度のばらつきを抑制できることが示唆された.