主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
血液凝固第Ⅸ因子(FⅨ)はグルタミン酸残基がビタミンK依存性にγカルボキシグルタミン酸(Gla)残基に変換されることで凝固活性を獲得する。FⅨにはスプライシングバリアントとしてNCBI上にバリアント1(V1)とバリアント2(V2)が登録されている。どちらも凝固活性を示すとされるが、結合に関わるドメインを欠くV2の生理活性は不透明であり、特にワルファリン類による凝固阻害についての知見は少ない。本研究では、V2について培養細胞を用いて血液凝固及びGla化修飾のin vitro試験を行い、第Ⅺ因子系凝固能とワルファリン感受性を測定した。またAlphaFold2を使用したin silico構造推定により、第Ⅶ因子、第Ⅺ因子との複合体形成能を解析した。
凝固活性試験ではV1は凝固活性を示したが、V2は示さなかった。次にELISAでGla化修飾したFⅨの発現量を測定した所、V1、V2ともにワルファリンによるGla化阻害が観察された。さらにウエスタンブロットでV2のGla化阻害曲線を求めることができたことから、V2もGla化修飾を受ける事が示唆された。またin silico構造推定により、V2と第Ⅶ、第Ⅺ因子との複合体像を構築した結果、V2と第Ⅶ因子の複合体形成は確認できなかったが、V2と第Ⅺ因子は特定ドメイン上で結合する像が得られた。
本研究よりV2は第Ⅷ因子及び第Ⅺ因子による活性化を介した血液凝固能を保有しないが、Gla化修飾を受けることがわかった。一方でAlphaFold2によるモデリングではV2と第Ⅺ因子が一部で結合するような像が得られた。in vitro試験とin silico試験の結果から、V2がV1の競合阻害タンパク質となり、血液凝固活性経路において機能調整因子として働く可能性が考えられる。実際、マウス肝臓でFⅨのRT-PCRによる定量を行い、V1に対してV2は1.5%ほど存在することを確認している。今後はさらに正確な定量と発現の確認、第Ⅶ因子系での凝固活性、V2がV1に対して競合阻害因子として働くかなどの検討を行う必要がある。