主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【背景・目的】マイクロプラスチックは、環境中に存在する5 mm以下のプラスチック粒子を指し、大気中や海洋中などいたるところに存在している。そのため、さまざまな経路でのヒトへの曝露が懸念されている。しかしながら、ヒトへの影響は明らかにされていないのが現状である。実環境中に存在するマイクロプラスチックは紫外線や波などの外的要因により表面が化学的に劣化していることが知られている。そのため、劣化状態を考慮に入れた生体影響評価が必須である。そこで本研究ではまず、環境中の劣化状態を模した標準品を作製した。さらにそれを用いて、マイクロプラスチックの生体影響評価の第一段階として細胞毒性試験を実施することで、マイクロプラスチックが細胞に及ぼす影響の評価を試みた。
【方法・結果・考察】マイクロプラスチックの標準品には、製造量が最も多いポリエチレン(PE)を選択し、その粉末サンプルを入手した。劣化前PEに172 nmの紫外線を照射することで、表面を化学的に劣化させた劣化後PEを作製した。また、環境から採取したサンプルと比較し、作製した劣化後PEが環境中に存在しうるものであることを確認した。次に、得られた劣化前後のPEを用いて、MTTアッセイによる細胞障害性試験を実施した。細胞種としては、免疫細胞であるRAW264.7とTHP-1および、マイクロプラスチックに曝露しうる肺、皮膚、腸の上皮細胞である、A549、HaCaT、Caco-2を選択した。その結果、すべての細胞種において、劣化後PEでのみ濃度依存的な細胞障害性が認められた。これにより、PEは劣化の有無により細胞への影響が異なることが示された。今後はマイクロプラスチックの物性を変え、さまざまな生体影響評価を実施し、マイクロプラスチックの生体への影響を明らかにしていきたい。