日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: S14-4
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シンポジウム14
サリドマイド代謝によるセレブロンのネオ基質選択性の変化
*宮川 拓也
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抄録

E3ユビキチンリガーゼの構成因子であるセレブロン(CRBN)を介してサリドマイド依存的に分解される標的タンパク質(ネオ基質)が探索され、サリドマイドの薬理作用と毒性の発現機構の理解が進展してきた。C2H2 zinc finger(ZF)型転写因子はこれまで知られているネオ基質の中で最も大きなタンパク質ファミリーであり、このうちIKZF1/IKZF3とSALL4がサリドマイドの免疫調節作用と催奇形性にそれぞれ関与する。これら転写因子は、N末端から2番目のZFドメイン(ZF2)でサリドマイド依存的にCRBNに結合し、ユビキチン-プロテアソーム系での分解に導かれる。生体内ではP450の作用によりサリドマイドの水酸化が起こるが、最近、フタルイミド環の5位の水酸化代謝物(5-hydroxythalidomide, 5HT)がSALL4の分解のみを効率的に引き起こすことが見出され、その仕組みが明らかになった。サリドマイドと5HTはどちらもCRBNにSALL4のZF2をつなぎとめる“分子のり”の役割を果たし、フタルイミド環の5位水酸化は、CRBN-SALL4複合体におけるサリドマイドの結合位置や配向を変化させないものの、水分子を介した水素結合ネットワークの形成を強化していた。さらに、5HTの5位水酸基は複合体中でSALL4 ZF2のβヘアピン構造に近接し、その2番目に位置するアミノ酸残基がC2H2 ZF型転写因子に対する5HTの選択性の鍵となる構造基盤であることが判明した。以上の知見は、C2H2 ZF型転写因子に見られる構造の差異や体内代謝の影響を受けるフタルイミド環が、サリドマイドの催奇形性を低減するための構造展開に有効な標的部位である可能性を示唆している。本シンポジウムでは、CRBN-SALL4複合体の分子構造に基づき、種特異的なサリドマイドの催奇形性発現機構についても議論する。

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