主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
様々な異物排泄トランスポーターの発現や機能は時刻によって変動し、医薬品の体内動態やその毒性に投薬時刻の違いによる差異を引き起こす。ABCトランスポーターのひとつであるP糖タンパク質(ABCB1)の腎臓における発現にも概日リズムが認められ、金属製剤を含む様々な生体外異物排泄の時刻変動を制御している。時計遺伝子よって構成される概日時計システムは、遺伝子の転写・翻訳やタンパクの局在・分解などの各過程に関与し、それら発現の時刻変動を制御している。遺伝子の転写後制御において、RNA編集やスプライシングはタンパク質産生における主要なプロセスであるが、我々はRNA上のアデノシンをイノシンへ変換する編集酵素ADARが、ABCB1遺伝子のpre-RNAからmRNAへの成熟過程に影響し、ヒト近位尿細管上皮細胞におけるP糖タンパク質の概日リズムを制御していることを発見した。ADARのABCB1 pre-RNA上への結合は、スプライシングによるイントロン27の除去において重要な過程であったが、ADARの発現が低い時間帯では、イントロン27が除去されずに不安定なABCB1 mRNAが産生され、P糖タンパク質の膜発現が低下することを明らかにした。また、最近の研究で、我々はADARが環状RNA(circular RNA)の産生制御を介して、他の異物排泄トランスポーターの発現にも及ぼすことを見出している。本シンポジウムでは、異物排泄トランスポーターの発現リズムにおけるADARの多面的な制御メカニズムについて紹介し、金属製剤を含む異物排泄機構における役割を概説する。