主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
ヒトを含む動物や植物は体内時計の仕組みを利用し、地球の自転周期に適応した生命現象を営んでいる。体内時計を司るのが時計遺伝子群であり、Clock遺伝子の発見以来、体内時計の分子機構が解明され、食・栄養と体内時計の関係を調べる学問として「時間栄養学」が発展してきた。(1)時間栄養学には二面性があり、「体内時計が食・栄養の効果を調整する方向性」と、「食・栄養が体内時計の位相・振幅・周期などに影響する方向性」がある。前者の例を述べる。マウスを自由摂食させると、朝食(暗期の最初)に当たるところで多くを摂食し、昼間はかなり少なく、夕方(暗期の終わり)に中程度に食餌を取る。しかしながら、高脂肪食を与えると、明期の休息期にも摂餌行動が盛んになり、末梢の体内時計の遺伝子発現はリズム性を失う。この時に暗期にのみの制限給餌を行うと、肥満や体内時計の乱れが是正できる。マウスで、朝の高タンパク群と夕の高タンパク群で筋量を調べると、朝にタンパク質に顕著な筋肥大が見られた。また、水溶性食物繊維は、ヒトでもマウスでも夕食より朝食の方で腸内細菌に効果的であった。(2)次に「食・栄養が体内時計の位相・振幅・周期などに影響する方向性」について述べる。マウスやヒトの実験で、長い絶食後に取る食事(朝食)で末梢時計はリセットされやすいことが分かった。食事によるグルコースやアミノ酸の上昇が結果的にインスリンやIGF-1のシグナルを活性化させ、時計遺伝子の発現上昇で同調効果を生みだす。マウスで餌を動機付けさせた行動実験を昼間に行うと、マウスの脳時計や末梢時計の位相は実験している時刻を示す。一方、主時計は変化しないので、主時計と末梢時計の位相関係がずれた状態(時差ボケ)を起こす。以上、実験動物飼育においては、時間栄養学的視点や同調環境因子についても注意する必要があろう。