主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
アトピー性皮膚炎の発症には遺伝要因と環境要因が関与する。環境汚染物質はアトピー性皮膚炎の発症や増悪に影響を及ぼすが、そのメカニズムは解明されていない。芳香族炭化水素受容体(AhR)は、環境汚染物質に反応するセンサーとなる転写因子である。環境汚染物質の慢性的な皮膚曝露を模倣するモデルとして、恒常活性化型AhR(AhR-CA)を表皮特異的に発現するAhR-CAマウスを作出したところ、アトピー性皮膚炎病態によく似た激しい痒みを伴う皮膚炎を発症した。遺伝子発現変化を調べると、AhR-CAマウスの表皮では、AhRの代表的標的遺伝子であるCyp1a1などに加えて、神経栄養因子Artemin(Artn)の発現が増加していた。また、AhR-CAマウスでは通常は真皮に存在する神経線維が表皮内まで伸張しており、Artemin中和抗体を投与するとその神経伸長が抑制され、アロネーシスと呼ばれる痒み過敏状態が改善した。クロマチン免疫沈降シークエンス解析の結果、Artnの約50 kb上流にAhRが結合する異物応答配列(XRE)を特定した。このXRE領域をCRISPR/Casにより欠失させたΔXREマウスの解析から、AhR-CAマウスではAhRがこのXREを介してArtnの発現を直接制御し、アロネーシスを引き起こすことが分かった。さらに、環境汚染物質であるDMBAをマウス皮膚に曝露すると、AhR依存的にAhR-CAマウスに類似した皮膚炎を発症した。アトピー性皮膚炎患者の表皮の解析から、CYP1A1およびARTEMINの発現が増えていること、また両者の発現に正の相関があることを見出した。以上より、環境汚染物質の皮膚曝露がアトピー性皮膚炎を惹起する分子メカニズムの存在が示された。アトピー性皮膚炎の新しい治療としてAhR活性阻害剤が期待される。