日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: S24-1
会議情報

シンポジウム24
ダイオキシン類の多様なエストロゲンシグナルかく乱作用
*石田 慶士中西 剛
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 近年、環境中に排出されるダイオキシン量は減少しているものの、カネミ油症を初めとする事故での曝露影響に苦しんでいる患者がいることから、その健康影響は現在でも考慮すべき課題である。ダイオキシン類の毒性発現機構には、主にaryl hydrocarbon receptor(AhR)を介した転写制御の関与が知られているが、AhRの転写制御を介さない経路の存在も指摘されている。またダイオキシン毒性の1つにエストロゲンシグナルかく乱作用、すなわちエストロゲン・抗エストロゲン作用の相反する2つの作用が報告されている。しかしながら、全身の臓器でこれらの作用を統合的に検証した研究はほとんどなく、どの臓器にどちらの作用を示すのか、これらの作用にAhRの転写制御がどの程度関与するのかは不明であり、ダイオキシン毒性の全貌は未だに解明されていない。

 この問題を解決するために我々は、独自に作製したエストロゲン応答性レポーターマウスを用いて、ダイオキシン類の中で最も毒性が強いとされる2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) を用いて、全身でのエストロゲンシグナルへの影響を評価した。全身in vivoイメージングの結果より、TCDDは腹部ではエストロゲン阻害作用、頭部では増強作用を示した。さらに臓器別に解析したところ、TCDDは肝臓・腎臓ではエストロゲン阻害作用、下垂体では増強作用を示した。一方、(抗)エストロゲン作用が認められたTCDDの曝露状況下においては、各臓器でAhR転写活性化の指標であるCyp1a1の発現誘導はほとんど検出されなかった。以上よりTCDDによるエストロゲンシグナルかく乱作用はAhRの転写制御を介さない可能性が示唆された。本シンポジウムでは、このようなダイオキシン類の多様なエストロゲンシグナルかく乱作用について議論したい。

著者関連情報
© 2022 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top