日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: S24-3
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シンポジウム24
AhRの細胞質における作用とダイオキシン毒性の関係
*吉岡 亘遠山 千春
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抄録

ダイオキシン毒性の起点となるアリル炭化水素受容体(AhR)は、ダイオキシン類などのリガンドに結合することで細胞質から核内へ移行し転写因子として多数の遺伝子を発現させる。この仕組みがダイオキシン毒性の発現機序と考えられてきた。一方で、AhRは、カルシウム・脂質メディエーター・リン酸化といった細胞内シグナルを活性化する作用を有する。この作用はin vitro実験でよく確かめられ、AhRのノンジェノミック作用と呼ばれているが、動物個体での毒性発現における役割に関しては知見が少ない。種々のダイオキシン毒性の中でどれがAhRのノンジェノミック作用を介して発現するかということは、ノンジェノミック作用を喪失したAhR変異体を用いることで直接検証できる。そのような変異体が存在しない現状では、検証法の工夫が必要となる。そのような工夫を組み入れた研究を取り上げてこの発表で紹介する。

Bunger MKらは、核移行能と転写活性化能を喪失した変異体AhR-nlsを有するマウスを作出した。このマウスではダイオキシン毒性が観られないことから、ダイオキシン毒性はAhRの転写因子機能が引き起こすとする考え方がある。我々は、AhR-nls変異によってAhRのノンジェノミック作用の1つであるcPLA2αのリン酸化が失われることを発見した(Fujisawa N et al., 2019)。従って、AhR-nls変異マウスでダイオキシン毒性が生じない理由は、AhRの転写因子機能に原因があるのか、AhRのノンジェノミック作用に原因があるのかは、現時点では不明である。Tanos Rらは、核移行能を保持し転写活性化能は喪失する変異体AhR(A78D)を肝臓で発現するマウスを作出した。このマウスでは、ダイオキシン曝露による薬物代謝酵素遺伝子の発現増加は起こらず、脂質代謝酵素遺伝子の発現低下は起こった。Pombo Mらは、ダイオキシン曝露による血小板凝集がAhR依存的に生じること、この際にp38MAPKとcPLA2αがリン酸化されることを示した。血小板が核を持たないことから、この現象はAhRのノンジェノミック作用によるものと考えられる。

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