主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
肝細胞を生体外の環境に取り出して、生体内と同様の機能を発揮させることは今なお困難である。肝細胞は、肝臓から分離した時から急速に分化機能は低下し、代表的な分化機能である薬物代謝酵素Cytochrome P450は、培養24時間後には、その活性の大部分が失われる。そのため、肝細胞が持つ高度な分化機能を維持させる方法や旺盛な増殖能を発揮させる手法の開発研究が行われてきた。しかしながら、初代培養肝細胞の分化機能を回復させることも培養皿内で増幅させることも容易ではなかった。
2010年代に入り、lineage tracing法を用いたマウスの研究から、従来均一の細胞と考えられてきた成熟肝細胞にheterogeneityがあることが明らかになった。私は、初代培養ラット肝細胞の中に増殖能の高い小型肝細胞(small hepatocytes; SHs)が存在することを見出した(Mitaka T et al. Hepatology 1992)。分化機能は、増殖能とreciprocalな関係にあると言われてきたが、SHsはコロニーを形成するように増殖し、培養経過と共に分化する。星細胞と共培養すると相互作用により両細胞から分泌された細胞外基質は、コロニー下に基底膜様構造を作る。SHsは自立的に増殖を止め、大型化し成熟化したSHsは極性を獲得し、細胞間に毛細胆管を形成する。毛細胆管は分泌された胆汁を一定方向に運搬することができる。最近我々は、SHsと胆管上皮細胞を共培養することにより毛細胆管と胆管を結合させ、肝細胞が分泌する胆汁を胆管内に誘導することに成功した (Tanimizu N et al. Nat Commun 2021)。
本シンポジウムでは、細胞形態、細胞外基質、胆管上皮細胞などが肝細胞の増殖や分化機能にどのような影響を与えるかについて話す。