主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
薬剤性肝障害(Drug induced liver injury :DILI)は、薬剤が原因で発症する急性・慢性肝障害である。1-10万人に1人が発症する非常に稀な副作用であるが、医療用医薬品、OTC薬、薬用ハーブ、サプリメント等1000種類以上のさまざまな薬剤で発症することが報告されている。この背景には薬剤ごとの副作用発症機序、投薬患者の遺伝的バックグラウンド、さらには肝臓の複雑な構造における細胞間相互作用を起点とした、潜在的なメカニズム等の要因が存在することで、DILIの毒性リスク予測および病態再現を困難にしている。中でも肝臓の血液・血管系は、薬物–細胞間における相互作用の調節機能や、反応性代謝物等の毒性因子に対する感受性を有する、いわばゲートキーパーとしての役割を担うことから、DILIをモデル化する上で重要な要素である。しかしながら、既存の2次元平面培養を基本とした実験系では、肝細胞単独もしくは血管内皮細胞との共培養といった手法が主流であり、3次元における複雑な構造や細胞間相互作用の影響が十分に考慮できない点が、より精緻なヒト臓器への外挿モデルを目指す上での課題の一つである。
そこで我々は以下の2つの視点、1. 肝臓特異的な類洞内皮細胞および動脈系血管内皮細胞といった複数種の血管内皮細胞を加えた構造化、2. 末梢血単核球との共培養による免疫応答の付与、に基づいて、肝機能や個々の薬剤応答能を担保するヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来肝臓オルガノイド技術を創出した。このコア技術は凝固・補体をはじめとした肝臓の機能的タンパク質の合成能が飛躍的に増強しているほか、血管構造存在下での免疫応答を考慮することで、複雑な薬剤応答性を観察可能な、次世代ツールとしての提供可能性を示唆しつつある。
本講演ではこれらプラットフォームの開発状況について報告し、創薬・安全性評価・疾患解析等のアプリケーションに向けた、in vitroモデリングアプローチのさらなる展開について議論したい。